ニューロマーケティングとは?押さえておくべき事例と自社での取り入れ方

自社のマーケティングを考えるうえで、「顧客理解」や「消費者ニーズ」を重要視している人は多いでしょう。

一方で消費者の意識・感覚は刻々と変化しており、変化に適時対応していくのは決して簡単ではありません。

今回は、脳科学の知見をマーケティングに取り入れる「ニューロマーケティング」を紹介します。

人の「無意識」に着目するマーケティング手法を導入する具体的な手法や活用事例も挙げていますので、効果的なマーケティング手法を探している方はぜひ参考にしてください。

 

1)ニューロマーケティングとは何か

はじめに、ニューロマーケティングとはどんな手法なのかを整理しておきましょう。

大きな特徴として、脳科学の知見を活用している点が挙げられます。

 

人の行動の95%は無意識のうちに行われている

ハーバード大学のジェラルド・ザルトマン博士は、人間の「無意識」について次のように述べています。

人間は、自分自身の意識の5%しか認識していない。そして、残る95%の方が我々の行動に関係している。

  

つまり、私たちは95%の無意識に突き動かされて行動しているというのです。

たしかに、過去の行動を振り返ってみた時に「なぜ、あの行動を取ったのか説明がつかない」「なぜか、そうするべきだと思った」といった経験をしたことがある人は少なくないでしょう。

私たちは常に根拠や原因に基づいて行動しているようでいて、実は自分でも説明がつかない行動を取っているケースが多いのです。

見方を変えると、私たちの行動には言語化されていない領域が非常に多く残されているともいえます。

 

顧客(消費者)の「本音」を知ることができる

行動の理由が可視化されていない領域が多く残されているという点では、顧客(消費者)の購買行動にも同様のことがいえます。

消費者が、なぜ商品Aではなく商品Bを選んだのかを分析する時、さまざまな要因が想定できるでしょう。

商品Bは商品Aよりも価格が安かった、商品Bのほうが機能的に見えた、商品Bのキャッチコピーが消費者のニーズにマッチしていたなど、複数の要因が考えられます。

しかし、明確な要因が浮き彫りにならないケースは決して珍しくありません。

なぜなら、消費者自身が「なぜ商品Bを選んだのか?」を説明できないことも多いからです。では、消費者は「何の理由もなく」商品Bを選んだのでしょうか。

ニューロマーケティングでは、理由もなく選んだと捉えません。消費者の無意識に着目することによって、一見理由がないように見えるその選択に含まれる消費者の「本音」に切り込んでいく手法です。

消費者の本音を知ることによって、言語化されていない消費者心理を把握するヒントを得られるのです。

 

2)ニューロマーケティングはどうやって人の心理・行動を把握する?

消費者の「無意識」に着目するニューロマーケティングですが、ここで次のような疑問を抱いた人も多いでしょう。

「人の心理や行動をどうやって把握するのだろう?」

実は、ニューロマーケティングでは無意識レベルの心理・行動を把握するための3つの指標が用いられます。次の3つの指標を押さえておきましょう。

  • 生理指標
  • 行動指標
  • 主観指標

  

生理指標─脳波や血液量・心拍数から評価する

人の脳波や血液量、心拍数といった数値に基づく指標です。日本には古くから「顔が青ざめる」「顔を赤らめる」といった表現があるように、身体的な反応と心理は深く結びついています。

しかも、心理が身体に与える影響は自分自身で制御することができません。緊張している時に心拍数が速くなったり、激昂した時に血圧が上がったりするのを自分で抑えるのが難しいことをイメージすると分かりやすいでしょう。

こうした生理指標は自分で制御できないことから、消費者の深層心理を定量的に把握するうえで有効とされています。

消費者自身も自覚していない感情の揺らぎや、無意識に抱いている欲求を解き明かすために役立つと考えられているのです。

生理指標は、fMRI(※以下動画参照)やEEGによる脳波測定の結果や、より簡易的なものでは心拍計による心拍測定の結果などが指標として用いられます。

参考:fMRIの概要

  

行動指標─目の動きや表情の変化などの無意識下の行動から評価する

視線の動きや表情の変化、何かを目にしてから反応するまでの時間といった行動上の特徴を捉える指標です。

たとえば「思わず商品を手に取ってしまった」「ついまじまじと見てしまった」といったように、私たちは意思の力が及ばない領域で行動していることがあります。

視線や表情といった外見上の変化に表れたこれらの行動を観測することで、無意識下での人の心理や行動が把握できる場合があるのです。

ある心境や心理が行動に表れる度合いは、人によって異なります。そのため、一定数の人の行動をデータとして蓄積しておき、定量的に分析する工程を経なければなりません。

行動指標はアイトラッキング(視線計測)や表情認識といった技術を駆使して、一定数のデータを蓄積した上で評価します。

 

  

主観指標─アンケートや面接の結果から評価する

アンケートや面接(インタビュー)など、消費者自身の主観に基づく回答結果から評価する方法です。

従来からマーケティングで広く活用されてきた手法であり、市場調査でもよく使われています。消費者が主観に基づいて回答することから、その時々の心境などによって回答に揺れが生じる可能性は否定できません。

しかし、消費者の意識を知るための重要な指標であることに変わりはないことから、ニューロマーケティングでも活用されているのです。

前述の生理指標や行動指標と主観指標を組み合わせることで、より多面的に消費者心理を知るのに役立ちます。

たとえば、行動指標で「商品Aより先に商品Bのパッケージに注目した」という計測結果が出ており、かつアンケート結果で「商品Bのほうが魅力的と感じた」という回答を得られていれば、商品Bのパッケージが優れているとより確実に判断できるのです。

 

3)ニューロマーケティングの活用事例

「具体的にどのような場面でニューロマーケティングが活かせるのか?」「活用することでどのような施策につながるのか?イメージがしづらい」という方もいらっしゃるでしょう。

続いては、ニューロマーケティングを実務で活用した事例を3点、紹介します。

 

事例①エレベーターの「開く・閉める」ボタンの押し間違いはどう減らせる?

日本感性工学会は2012年にニューロマーケティングを用いて、エレベーターの「開く・閉める」ボタンの押し間違いについて発表しています。

エレベーターにはドアの開閉ボタンが設置されていますが、とっさにボタンを押した際に「開」と「閉」を逆に押してしまった経験はないでしょうか。

従来のエレベーター開閉ボタンには次のようなアイコンの種類があります。

  • 「▶」を組み合わせた矢印型
  • 「開」「閉」や「OPEN」「CLOSE」が対になった文字型

 

上記はいずれも「記号」または「モノを描いたイラスト」のため、脳内で意味を解釈しなければなりません。

この「解釈」に要するわずかな時間が、判断を誤る原因になっている可能性があるというのです。

今回の調査では、ボタンアイコンに以下の顔イラストを取り入れて行われました。

すると、顔イラストのボタンアイコンにしたときに押し間違いが大きく減ることが分かったのです。

 

脳科学では、脳に人の顔を処理する部位が存在することがよく知られています。

私たちが本能的に反応しやすい要素をアイコンデザインに取り入れることで、押し間違いが起きにくくなったということでしょう。

 

事例②どちらの缶チューハイが「飲みたい!」と思えるか


アサヒビール株式会社は、缶チューハイ「アサヒもぎたて」のリニューアルに当たり、ニューロマーケティングの手法を用いてパッケージの刷新を行い、リニューアル後の売り上げ向上に成功しました。

行った手法は、いくつかのデザイン案を消費者モニターに見せた際、パッケージのどの部分に視線が集まっているのかを計測するというもので、アイトラッキングと呼ばれる手法です。

そのうえで、デザインをポジティブに捉えたかどうかの脳波計測を組み合わせ、「注目を集めやすく、かつ好意的な反応を示しやすいデザイン」を探っていったのです。

このように、定量的な数値を元にデザインを評価する試みは、缶チューハイをはじめ多くの商品で実践されています。勘やセンスに頼らないデータドリブンのマーケティング施策において、ニューロマーケティングが効果を発揮するケースが増えているのです。

 

 事例③赤ちゃん用おもちゃ。当の赤ちゃんは本当に喜んでいる?

株式会社バンダイは、赤ちゃん用のおもちゃ「ベビラボ・ブロックラボシリーズ」の企画開発において、ニューロマーケティングの手法を活用しています。

言葉を話せない乳児の感覚を知る際に、言語化されていない領域の感覚・感情を手がかりにするニューロマーケティングとの相性に注目したのです。

たとえば、赤ちゃんが好む遊びのひとつに「いないいないばあ」がありますが、「アンパンマンのいないいないばぁ」と「見知らぬ人のいないいないばあ」を比較したところ、脳活動計測により「アンパンマンのいないいないばぁ」に対して、より強い興味関心を示すことが確認されました。

赤ちゃん用のおもちゃは、「赤ちゃんが落ち着くか」「泣き止んで保護者の負担を軽減させられるか」といった点も購入を検討する際の重要な要素となります。

上記の検証を通じて赤ちゃんが「喜ぶ」ことが実証されれば、客観的な根拠に基づいて商品を開発できるだけでなく、保護者のニーズに合った訴求をすることも可能となります。

 

4)ニューロマーケティングを自社で取り入れるには?

ニューロマーケティングのメリットや活用事例について理解が深まったでしょうか。中には、「効果は分かったものの、自社で活用はできるだろうか?」と感じている人もいるかもしれません。

そこで、ニューロマーケティングを実際に取り入れる方法について見ていきましょう。

  • 専門のリサーチ会社に依頼する
  • ニューロマーケティングを実施している企業・サービスを参考にする
  • Web解析の手法を取り入れる

  

専門のリサーチ会社に依頼する

ニューロマーケティングに取り組むための最も確実なアプローチとして、専門のリサーチ会社に依頼する方法が挙げられます。

マーケティングリサーチを依頼したい対象商品をリサーチ会社に託すことで、分析から結果の検証までをワンストップで実施してもらえるからです。

 

ニューロマーケティングの代表的なリサーチ会社

会社名説明
マクロミルリサーチ会社として長く活動し、多くの実績を持つ会社です。

ニューロマーケティングに関する脳波計測やNIRS計測、各種生理計測に対応しており、先に紹介したアサヒビール「缶チューハイ」の事例も、同社の研究によるものです。
ジャパン・マーケティング・エージェンシージャパン・マーケティング・エージェンシーは1968年から活動しているマーケティング会社です。

「現場」の声や動向を重視したフィールドマーケティングに強みがあり、多くのクライアントを擁しています。 ニューロマーケティングではEEG(脳波)方式を採用しており、AIや脳神経分野の研究者が分析します。
日本インフォメーション日本インフォメーションはリサーチ会社として50年以上の実績を持ちます。自社で専用の脳波測定システムを保有し、かつ専門スタッフの適切な活用・分析が提供できるのが同社の強みです。

ニューロリサーチと他の分析手法を組み合わせての包括的なソリューションの提供を得意としています。
NeU(ニュー)NeU(ニュー)は東北大学と日立ハイテクによって設立された「脳科学カンパニー」です。 多くの企業にニューロマーケティングの研究結果を提供しており、先に紹介した「赤ちゃん用のおもちゃ」の事例も、同社の研究によるものです。

研究開発から商品企画、広告宣伝、購買行動までサプライチェーンのすべてのフェーズにおいて提案を可能としています。

 

リサーチ会社に依頼するメリットとして、自社で計測のための機器や設備を導入する必要がなく、最小限の労力で効果的な施策を見出せる点が挙げられます。

脳科学の最新の知見を反映できるケースも多く、優れたノウハウを活かせることも大きなメリットといえるでしょう。

ただし、専門のリサーチ会社に依頼した場合、現状ではリサーチ費用が高額になりがちです。脳波測定だけでも100万円以上の費用がかかる可能性があります。

そのため、あまり費用をかけられない企業の場合は、公判で紹介するような別の方法を検討することをおすすめします。

 

ニューロマーケティングを実施している企業・サービスを参考にする

前章で紹介した事例をはじめ、すでにニューロマーケティングを活用した施策を講じている企業は少なくありません。

ニューロマーケティングを取り入れた商品・サービスの開発は、今後いっそう活性化していくでしょう。

こうした実際の事例を参考に、自社で取り入れられそうな施策を検討していくのも1つの方法です。

ニューロマーケティングの実践事例は、マーケティング系のメディアや専門リサーチ会社のWebサイトに活用例として掲載されていることがあります。

他社事例を積極的にウォッチし、活用できそうな要素がないか常にチェックしていくことは業界や消費者の動向をキャッチアップするうえでも有効でしょう。

さまざまな事例に触れていくことで、自社のマーケティング施策に活かせる事例の引き出しを増やすことができるはずです。

おすすめの情報収集サイトとして、いくつかのプレスリリース・プレスニュースをご紹介します。

  

Web解析「ヒートマップ」はニューロマーケティングに近い手法

Web解析においては、ヒートマップという手法が広く活用されています。

ヒートマップとは、Webサイトを訪れたユーザーの滞在時間やクリックされた場所・頻度からコンテンツの注目度を測定する手法です。

以下のサンプル図のとおり、よくクリックされる箇所や長時間見られている箇所がサーモグラフィのように色分けされるため、ユーザーの行動を可視化するうえで役立ちます。

 

画像引用元:「みんなの転職体験談」

  

たとえば上記のヒートマップでは、文中に「厚生労働省」の引用があった部分以降から訪問ユーザーの熟読レベルが高まっているのが分かります。

あくまで一例ですが、人は馴染みのある固有名詞を見つけると対象への信頼感を持ちやすくなるのです。

このように、ヒートマップを計測するための「ヒートマップツール」は、ニューロマーケティングにおけるアイトラッキングに近い手法といえます。

ヒートマップツールは月額数万円から利用できるサービスが多く、比較的安価に始められるマーケティング手法です。

コンテンツ内の熟読エリアや終了エリア、クリックエリア、マウスの動きなどを可視化することで、Webサイト全体やコンテンツの改善だけでなく、「ターゲットユーザーがより興味・関心を示す領域」を見い出すことに役立つはずです。

 

まとめ)ニューロマーケティングで消費者の本音に迫ろう

マーケティングの手法は日進月歩です。

とくに近年はデータ収集の範囲が広がったことに加え、分析・検証するためのツールや技術も飛躍的に進歩しつつあります。

勘や経験に頼らない客観的なデータに基づくマーケティング戦略の1つとして、ニューロマーケティングもまた注目を集めているのです。

そして、私たちがニューロマーケティングの手法を取り入れる最たるメリットは「世の中をよりよく知る」ことにあります。

目の前にありながらも私たちが認識することができていない事柄は、まだまだ多くあるのです。

 

今回解説してきたポイントを参考に、ぜひ自社で取り組めそうなニューロマーケティングの手法を検討してみてください。

ニューロマーケティングを効果的に取り入れることで、これまで可視化されていなかった消費者の本音によりいっそう迫ることができるはずです。

 

業務コミュニケーションも「互いの心境に触れられる」を意識することが大切

ニューロマーケティングは総じていうと、「非言語領域のマーケティング」といえます。

非言語領域は日常のコミュニケーションにおいても、私たちに多大な影響を与えています。

業務コミュニケーションがメールやチャットといった言語領域のみに偏っていた場合、社員どうしの共創が発揮されにくくなっている可能性もあります。

外回りや在宅の社員が多く、普段なかなかコミュニケーションを取りづらいという会社の方は、社内外に関わらず電話等のコミュニケーションが可能な環境構築も意識すると良いかもしれません。

 

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