メタバースは私たちのビジネス・生活にどう影響する?今後の展開を予測

最近、メディア等で「メタバース」という言葉をよく耳にするようになりました。

言葉自体は聞いたことがあるものの、私たちのビジネスや生活にどう影響を与えるのか、具体的なことは把握していない人も多いのではないでしょうか。

今回は、メタバースが今後私たちのビジネス・生活に与える影響について解説します。

メタバースが今後どのように展開・発展していくのか、また、主要業界の動向も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

  

1)メタバースとは何か

はじめに「メタバースとは何か」を整理しておきましょう。

「メタバース」という言葉は、「meta(高次の)」と「universe(宇宙)」を組み合わせた造語として生まれました。意味としては、映画「マトリックス」や「レディ・プレイヤー1」さながらの仮想世界をイメージする人も多いのではないでしょうか。

しかし「メタバース」は、仮想世界だけを指しているのではありません。

VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といった「XR」と呼ばれる領域や、現実の都市や社会をデジタル世界に再現したミラーワールドといった領域のすべてを包括する概念が、「メタバース」なのです。

つまり、メタバースは未来の話ではなく、現在すでに様々なシーンで活用されているのです。

  

メタバースは本当に市民権を得られるのか?

皆さんの中には、メタバースが本当に今後広く活用されるようになるのか、半信半疑の人もいるでしょう。

結論からお伝えすると、メタバースは、今後大きく発展するという見方が強い分野です。

矢野経済研究所の調査によれば、2022年度の国内メタバース市場規模は、2021年度比245.2%の1,825億円に達すると見込まれています。

さらに、2026年度には1兆円を超える市場に発展していくと予想されているのです。

ちなみに上記の調査では、ゲーム業界は対象外としています。

つまり、ゲーム以外の業界でもメタバース市場は大きく発展していくと見込まれているのです。今後メタバース市場がさらに発展を続け、市民権を得ていく可能性が高いと考えられています。

  

メタバース発展のカギは「センス・オブ・プレゼンス」(=実在感)

メタバースが今後発展していくうえで、重要なカギを握っているのが「センス・オブ・プレゼンス」という概念です。

日本語では「実在感」と訳されているこの概念は、「今まさにそこにいる」という実感のことを指しています。

例えば、メタバースではないコミュニケーション手段の1つに、ビデオ通話が挙げられます。

ビデオ通話は映像と音声を通じて会話を交わすことはできるものの、話している相手と「今まさに同じ空間にいる」とは感じられません。

コロナ禍で一時的に流行した「Zoom飲み会」が、行動制限の緩和に伴い廃れつつあることが、まさにビデオ通話が「センス・オブ・プレゼンス」に欠けている事を如実に表しています。

一方、バーチャルライブはますます活況を呈しています。ライバーと同じ時間・空間を共有しているという感覚が、多くの人を虜にしているのです。

このほか、医療や危険地域の遠隔作業など、エンタメ分野以外でも「実在感」が求められるシーンは多くあります。

こうしたニーズにメタバースの技術がどれだけ応えられるかが、今後の発展のカギを握ることになるでしょう。

  

2)メタバースの今後の展開は?私たちのビジネスや生活にどう影響する?

次に、メタバースが今後の私たちのビジネスや生活にどのような影響を与えるのかを見ていきましょう。未来と現在の2つの視点から考察していきます。

  

10年後、私たちはスマホを使っているか

現在、私たちにとって最も身近な最先端のデバイスはスマホでしょう。しかし、10年後も、私たちがスマホを使っているとは限りません。

インターネットが普及してから早くも四半世紀が過ぎようとしています。

これまでテクノロジーが発展してきた軌跡を踏まえると、スマホがインターネットデバイスの最終形態とは考えにくいでしょう。

AR・VR技術を搭載したスマートグラスなどのデバイスが実用化されれば、いずれはより便利なそれらのデバイスが、スマホに替って普及していくことも想定できます。

わずか十数年前まで、インターネットに常時接続されたスマートデバイスを誰もが持ち歩くようになるとは、誰も想像していませんでした。

同様に、10年後の社会ではスマホに代わるデバイスが広く普及していることは、十分に起こり得るのです。

  

メタバースが実現した「遠隔業務」

リモートワークを経験した人なら、「現地にいなくても業務を進められる」感覚は馴染みのあるものとなっているでしょう。

メタバースの技術が発展していくことで、物理的な空間を超えて解決できることは、ますます増えていくはずです。

例えば、放射能汚染地域や深海、宇宙空間といった人体にとってリスクの高い場所での作業は、ロボット+VRの技術で行われることが多くなっていく事が見込まれます。

無医村や感染リスクの高い医療現場など、メタバースを活用した遠隔医療の実現が待ち望まれているシーンも既に数多くあります。

このほか、アバターによるリモートワークやロボットによる遠隔介護のように、メタバースは私たちの暮らしの中で活用されていくポテンシャルを秘めています。

メタバースの進歩で、遠隔作業で実現できることが飛躍的に増えていくのです。

  

メタバースで「新しい経験・新しい自分」を選択できる可能性

一方メタバースは「現実とは異なるもう1つの世界」と捉えることができます。新しい経験・新しい自分をメタバースの中で体現できる可能性もあるのです。

一例として、メタバースの中であれば「失敗」が経験できる「メリット」があります。

フライトシミュレーターによる飛行訓練であれば、墜落事故の失敗をしても人命が失われることはありません。

メタバースの世界で失敗を繰り返した経験により、現実の世界で重大な失敗を回避できることに繋がることもあるでしょう。

また、仮想空間で生成するアバターは、必ずしも本物の自分に似せる必要はありません。

メタバースでは容姿や性別、年齢に囚われることなく、新しい自分になる事ができます。
身体的ハンデのある人が、自由にスポーツやアクティビティを楽しむこともできます。

メタバースは、自身が属するコミュニティや、より自分らしい生き方を、選択する自由をもたらす可能性を秘めているのです。

  

3)ビジネスシーンでメタバースはどのように発展していくか。主要業界ごとの動向

今後、メタバースはどのように発展していく可能性があるのでしょうか。主要業界ごとの動向を見ていきましょう。

  

ゲーム・エンターテイメント業界

メタバース市場の中でも活性化が最も見込まれているのがゲーム・エンターテインメント業界です。すでに人気を博しているサービスの一例を、下表に挙げました。

  

サービス名概要
REALITYアバターを生成してバーチャルライブを配信できるスマートフォンアプリ。
スマートフォンのインカメラで配信者の表情を読み取り、アバターの顔にリアルタイムで反映。チャットによるバーチャルコミュニティでユーザー同士の交流も可能。
FORTNITE無料でプレイできるバトルロワイヤルゲーム。
プレイヤーは自分でワールドをデザインし、ワールド内でコミュニケーションを図ることも可能。
また、バーチャルライブにも活用され、ゲームの領域を超えてZ世代に支持されている。
バーチャル渋谷現実世界の渋谷に似せたバーチャル空間。
音楽フェスやアニメキャラクターとの交流会などのイベントが配信されている。イベントでの投げ銭を渋谷区の公共福祉に活用するなど、現実世界の行政にも役立てられている。
The Sand Boxメタバース内で土地(LAND)やアイテムの売買が可能なプラットフォーム。
LANDは現実世界の不動産と同様に貸し出して不動産収入を得ることもできる。また、自身が保有するLAND上に3Dゲームを作成して収益化することも可能。

ゲーム・エンターテインメント業界では、メタバースが今後ますます活用されることが見込まれています。メタバース市場の牽引役となっていくと予想されています。

  

医療業界

医療業界でメタバースの活用が期待されている事は、前述いたしました。すでに実用化や実証実験が行われている技術を、下表で紹介します。

  

企業名概要
ライカマイクロシステムズ株式会社ARを活用して脳血管領域の可視化を実現。血流画像から生成された大脳構造画像を、深奥部まで詳細に把握できる。
イマクリエイト株式会社筋肉注射の手順をVR内に表示した、トレーニング教材を提供。事前の座学に加え、VR教材を活用することで、ミスや手順漏れを防止。
日本マイクロソフト株式会社MRを活用したシステムにより、離島や僻地など専門医のいない地域でも、リウマチ専門医による遠隔診療が受けられる仕組みの実証実験を開始。
株式会社comatsunaメタバースクリニックサービスを提供。メタバース内の医師による悩み相談や座談会に参加できる。

超高齢化社会の到来に備え、医療従事者の不足を補うためのメタバースの活用が、今後いっそう加速していくことが見込まれます。

  

小売業界

小売業界においても、メタバースを取り入れる企業が現れています。下表はメタバースの取り組みの一例です。

  

企業名概要
BEAMSバーチャルマーケットに出店し、原宿のリアル店舗を模した2層のバーチャルショップを提供。実際の店員が操作するアバターが接客、各種ファッションアイテムや3Dアバターを販売する。
IKEA家具を自宅などに配置したイメージを把握できるARアプリを提供。室内のコーディネートを疑似体験したうえで購入できる。
KADOKAWA直営書店をイメージした空間をメタバース上に再現。VRまたはスマートフォンでバーチャル書店内を歩きながら本を選べる。他の来店客と店内で会話を交わすことも可能。

現実世界で使う物理的な商品をバーチャル空間で販売するケースと、メタバース内で利用できる仮想的な商品を扱うケースが見られます。

小売業界にメタバースが浸透することで、「所有」の概念そのものも拡張されていくかもしれません。

  

旅行業界

コロナ禍における世界的なロックダウンや外出自粛の影響により、旅行業界ではメタバースを取り入れる動きが活発化しています。

  

サービス名概要
バーチャルOKINAWA仮想空間上に再現された国際通り商店街やビーチで観光体験ができる。
世界遺産の見学のほか、沖縄出身バンドのライブやVtuberとのコラボイベントなども開催。
メタバースバスツアー琴平バスが提供するオンラインバスツアー。
ライブ中継動画で観光を楽しんだり、ご当地の食べ物を後日自宅に配達するツアーを提供。
Le Petit Chef身長58ミリのシェフをプロジェクトマッピングで投影する、セントレジスホテル大阪のサービス。
バーチャルの物語と現実の料理の融合を楽しめる。

旅行業界におけるメタバース市場規模は2022年〜2026年の間に1,882億4,000万ドルの増加が見込まれており、同期間中は26.01%の年平均成長率が予測されています(※)。

※株式会社グローバルインフォメーション「旅行・観光産業向けメタバースの世界市場:2022年〜2026年」より

  

教育業界

教育業界においても、メタバースの活用・導入事例が多く見られるようになりました。国内外での有名な取り組みの事例を見ていきましょう。

  

企業・団体名概要
角川ドワンゴ学園N高等学校とS高等学校の普通科で、VRヘッドセットを活用した授業を導入。
歴史的遺跡などに触れられる3D教材をはじめ、メタバース内で入学式や運動会を開催する試みがなされている。
富士ソフトバーチャル教育空間「FAMcampus」を提供。
生徒はアバターで登校し、アバターの先生から受講。通学が不要なオンライン授業と、現実の学校生活と同様のコミュニケーションを実現。
スタンフォード大学VRヘッドセットを活用し、メタバース内でほぼ全ての授業を実施。
生徒はリアルと同様の体験を通じて履修内容への理解を深めている。生徒らは年間150日程度の時間をメタバース空間で過ごし、主要なカリキュラムとして機能している。

従来の授業では困難だった体験型学習や、生徒1人1人に合わせた指導を充実できる教育のあり方として、今後いっそう実用化が進むことが期待されています。

  

まとめ)メタバースを自社のビジネスに取り入れよう

今回紹介してきた通り、メタバースは遠い未来の話ではなく、すでに私たちの身近なところで活用されている技術なのです。

メタバースはゲーム・エンターテインメント業界に留まらず、現実世界では困難だった物理的な問題を解決する技術として、注目されています。

本記事で紹介した事例を参考に、ぜひメタバースを自社のビジネスに取り入れてみてください。メタバースが新たな事業の創出やサービスの向上につながる可能性は、決して低くはありません。