社内の「報連相」がうまくいかないとき。原因は人ではなく組織にある?

経営層や人事担当者の方の中には、次のような悩みを抱えている方はいないでしょうか?

社内の報連相がうまくいっていない

社員に報連相の指導をしても改善されない

報連相は社会人の基本として新入社員研修でほぼ必ず取り上げられるトピックです。

しかしながら、実務でしっかりと報連相ができていないケースは少なくありません。報連相はどうすれば改善できるのでしょうか?具体的な解決策について見ていきましょう。

1) 報連相がうまくいかないとき、「人」に原因を求めても改善されない

報連相がうまく機能しない組織で多く見られるケース

報連相がうまくいかない原因を「人」に限定してしまうと、有効な解決策が見つからないことがあります。

それは、報連相がうまく機能しない原因の根底に「なぜ報連相が必要なのか」「何を報連相するべきなのか」が共有されていないことがあるためです。

報連相がうまく機能していない組織では、しばしば次の点が共有されていません。

  • なぜその報連相が必要であるのか
  • 今のチーム・組織で業務上の優先順位はどうであるのか



 

事例①:あるプロスポーツチーム運営会社であった、報連相の課題

筆者が企業向けの研修講師を営んでいたとき、とあるプロスポーツチーム運営会社から、「中途社員の報連相の質が低いから、ビジネススキル研修を実施してほしい」と言われました。

そこで研修プログラムを組み立てつつ、実際に経営者や中途社員にヒアリングをしていくことになりました。

そのなかで、あることに気がつきました。

それは、「経営層が大切にしている企業理念が、中途社員には浸透していない」ということです。

企業理念とは、会社の根幹となる考え方・価値観です。企業理念が伝わっていなければ、その社員は日々の業務で共有すべき情報や守るべきルールの優先順位をつけることは難しいでしょう。

企業理念のひとつに、「価値のある情報提供」がありました。

ファンからの信頼関係を築くうえで、欠かせない要素だと経営層が考えていたものです。

「価値のある情報提供」とはかなり抽象度のある表現ですので、具体的な例がなければイメージは付きにくいでしょう。経営層や古参の人たちは長年の経験からの「暗黙知」でそれを理解していましたが、逆にまだその暗黙知が形成されていない人への理解は深まっていない状態でした。

そこに中途社員との認識の溝ができてしまっていたというわけです。

そうした状況を鑑みて、研修プログラムはビジネススキルではなく「関係構築」に変更しました。

経営層・古参の社員と中途社員とのコミュニケーションを活性させ、相互理解を深めることが報連相の健全化に繋がると考えたためです。

はたして、報連相の課題はその後大きく改善されました。

報連相の質が低い要因は、関わる人たちの相互理解の低さにあったのです。


 

2)社内の報連相がうまくいかないときに、まず確認すべき原因箇所3つ

報連相がうまく行かないときの確認ポイント

社内の報連相がうまくいかない場合、まず以下の3点を確認しておくとよいでしょう。

  • 想い・ビジョンの共有がされているか
  • 関わる人たちの関係構築の状態はどうか
  • コミュニケーションツールおよび運用は整っているか

想い・ビジョンの共有がされているか

企業活動には、必ず何らかの目的があります。

「売上を伸ばす」といった目先の目標ではなく、その組織がなぜ存在しているのか、何を達成するべき組織なのか、といった共通の想いやビジョンがあるはずです。

先の事例①でも紹介した通り、こうした想いやビジョンは一体感のある組織を築いていく上で欠かせない重要な要素です。また、関わる人たちの一体感が強まれば、報連相の品質も当然高まります。

ビジョンを共有する重要性を示す寓話として、「3人のレンガ職人」という話があります。

3人のレンガ職人は同じようにレンガを積み上げているのですが、「何をしているのですか?」と聞かれて3人はそれぞれ次のように答えました。

  • 職人A「親方の命令でレンガを積んでいる」
  • 職人B「レンガを積んでお金をもらうためにやっている」
  • 職人C「後世に残る大聖堂を建てるためにやっている」

職人A・Bのようなタイプの人が多い組織では、ビジョンが共有されているとは言いがたいでしょう。

「大聖堂を建てる」といった共通のビジョンがあって初めて、ビジョンを達成するための報連相が必要性を帯びてくるのです。

事例② リッツカールトンでは、アルバイトに至るまでビジョン共有が徹底されている

企業理念やビジョンが高度に共有されている事例として、ホテルグループのリッツカールトンがよく知られています。

リッツカールトンでは「ゴールドスタンダード」と呼ばれる企業理念を掲げ、役職や雇用形態を問わずスタッフ全員に徹底して共有しているのです。

ゴールドスタンダードは「クレド」と「モットー」から成り立っています。次に挙げるのは、それぞれクレドとモットーに書かれている文言です。

  • お客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供すること(クレド
  • 紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女(モットー

具体的にどんな場面で何をするべきか事細かに規定するのではなく、それぞれの従業員が「おもてなし」を実現するために行動してもらいたい、と伝えているのです。

たとえアルバイトであっても、お客様にとってはスタッフの一員であることに変わりはありません。

リッツカールトンではこうしたビジョンを徹底して共有することにより、常に最高レベルのサービスを供給することに成功しています。

関わる人たちの関係構築の状態はどうか

報連相には日頃の関係性が大きく影響するものです。

チーム内の関係性が芳しくなく、相互理解の度合いが高まっていなければ、お互いの思考もばらばらの方向を向いてしまうでしょう。

その結果、お互いが必要とする情報にも温度差が生まれやすくなり、行動・結果となって表面化したのが「報連相の機能不全」というわけです。

つまり、報連相を改善するなら関わる人たちの関係構築の状態を注意深く振り返っておく必要があります。

成功の循環モデル

組織が好循環(グッドサイクル)を辿る際は、関係→思考→行動→結果→関係…という流れで表すことができるというのです。

報連相というひとつの行為においても、信頼関係や相互理解がより高次になれば、お互いの意見や見解を積極的に伝え合い、より良い考えにしていくための働きかけも活性化するでしょう。

こうした地盤が固まれば報連相の質が高まっていき、報連相をするメリットを実感しやすくなるはずです。その結果、さらに信頼関係が深まり報連相の質も高まっていくという好循環が生まれるのです。

コミュニケーションツールおよび運用は整っているか

報連相を促進するコミュニケーションツールがそもそも用意されているか、適切に運用されているかといった点も確認しておくべきでしょう。

たとえば、上司へ報告する手段が「対面」に限られている場合、上司が離席していることが多い・次にどんな予定が入っているのか分からないといった点が心理的なハードルとなり、報連相を阻害している可能性があります。

また、ビジネスチャットなどのツールをすでに導入している場合も、運用方法について改めて確認しておきましょう。



 

3)報連相を活性化する組織にしていくための、取り組み2点

組織内で報連相を活性化させ、円滑に回していくにはどうすればよいのでしょうか。具体的な2つの取り組みを紹介しますので、それぞれの施策を同時並行で進めていき、報連相の強化を実現させていきましょう。

  • 事業・仕事への想いを共有し合える場を定期的に持つ
  • 「効果的・効率的な報連相」を実現できるコミュニケーションツールの導入と運用

事業・仕事への想いを共有し合える場を定期的に持つ

事業・仕事への想いを共有し合える場を定期的に持つ

コミュニケーションが成立する前提として「共通理解」が挙げられます。たとえば「もっと頑張ろう」と上司が発言した場合、共通理解が図られていないチームでは各々が次のような捉え方をする可能性があるのです。

  • Aさん:多少強引な手を使ってでも契約をあと3件取ろう
  • Bさん:仕事をじっくり進めてミスなく完璧に仕上げよう
  • Cさん:残業時間を増やして頑張っている姿を見せよう

仕事への想いや目指すべき地点が1人1人異なっていると、上記のような食い違いが生じてしまいます。想いや目指すべき地点を共有するには、次の3つの要素をそろえていく必要があるでしょう。

  • Will:個人的に「やりたいこと」
  • Can:個々人が「できること」
  • Must:全員で「やり遂げるべきこと」

これらは互いに無関係に存在しているのではなく、Willを実践することでCanを実感することもあれば、MustがWillと一致することでチームとしての一体感が生まれることもあります。

事業・仕事への想いを共有し合える場を定期的に持ち、Will・Can・Mustの方向性をそろえていくことが報連相の質の向上へとつながっていくのです。

「効果的・効率的な報連相」を実現できるコミュニケーションツールの導入と運用

実用性の高いコミュニケーションツールの導入と運用

報連相がしやすい仕組みを整えることも非常に重要です。対面・電話といった限られた手段だけでなく、チャットやWeb会議など複数のツールを導入することで、報連相のハードルを下げることができます。

ツールは導入するだけでなく、運用ルールを設けておくことが大切です。

たとえば、チャットツールでしたら以下の運用ルールを設けておくと、スムーズな活用や活性に有効です。

  • チャットツールのコミュニケーションの利用範囲と優先度を決める
    …「メールとチャットのどちらを利用するか」等、社員が迷わずに利用できるようにする
  • 基本ルールと禁止事項を決めておく
    …例えば読了を示すアクションを決めておくなど(「承知しました」「了解しました」というメッセージ形式にすると最初のメッセージが埋もれてしまうなどがあるため、スタンプ等にする)
  • メッセージの送受信の時間を決めておく
  • ユーザー名の表示を規則化する
  • チャットの管理者を決めておく

外回り・在宅メンバーとの連絡は、チャットツールだけでなく電話もふんだんに使えることがベター

外回り・在宅メンバーとの連絡は、電話もふんだんに使えることを意識するとよいでしょう。

会社支給の携帯電話を用意することで、社内コミュニケーションの活性が進んだケースも複数あります。

たとえばフォーバルテレコム社の「どこでもホン」でしたら、オフィスの内線を利用するような感覚で外回り・在宅メンバーとの連絡が可能です。

どこでもホン
どこでもホン|フォーバルテレコム



 

まとめ)報連相の改善は「人」ではなく「仕組み」を整えることから

報連相がうまくいかないとき、コミュニケーションの面で問題を抱えている当事者に目が向きがちです。しかし、問題の本質は「人」ではなく「仕組み」にあるケースが少なくありません。

今回解説してきたポイントは、一見すると報連相とは直接的な関わりがないように見えるものもあるでしょう。

報連相の本質に立ち返ったとき、「何を」「いつ」「なぜ」「どのように」伝えるかがお互いに一致していれば、問題にはなりにくいことが分かります。

ぜひ仕組みの面から組織を見直すことで、報連相の改善へとつなげてください。

仕組みを整えていくことは、報連相に限らず組織全体の活性化にも効果をもたらすはずです。