コロナ禍で急速に普及したテレワークですが、その運用方法は新たなフェーズに入りつつあります。
「これからの時代におけるテレワーク推進」をテーマに、失敗しないための導入と改善の手順について解説します。テレワーク推進の成功事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
1)テレワーク推進後「チームの生産性が低くなった」と答える企業は45%
下図は、テレワーク導入の前後で、チームの生産性がどう変化したかの調査結果です(2020年・Unipos株式会社公開)。
一般社員の約45%が「チームの生産性が低くなったと感じている」と回答しています。
参照:テレワークで一般社員の4割強が「チームの生産性が低下」–Uniposが調査 – CNET Japan
一方で、「生産性が高くなった」「変わらない」と回答した人も、半数以上いることが読み取れます。
- テレワーク推進により、生産性の低下につながることがある
- これまでと変わらない、またはそれ以上の生産性を維持できることもある
生産性の低下につながっていると感じている場合でも、原因と課題を把握し、また成功事例を参考にする事で、テレワークを成功に転じる事ができるのではないでしょうか?
テレワーク推進の一番の課題は、「コミュニケーションの取りづらさ」
下図は、2020年に、テレワークに携わる288名に対して実施した「テレワークの課題点」についてのアンケート結果です。
最も多かった回答は「関係者とのコミュニケーションが取りづらい」事でした。
参照:みんなの転職体験談「テレワークへの移行で、私たちの働き方はどう変わった?288人のアンケートとその考察」
3番目と4番目に多かった回答からも、テレワークにより対面機会が減少することで、コミュニケーションに関する問題が生じたことが読み取れます。
テレワークを推進するにあたって、予め「コミュニケーションの取りづらさ」を課題としておくことが重要といえるでしょう。
2)テレワーク推進を成功した企業の事例
ここからは、テレワーク推進に成功した企業の事例について見ていきましょう。
テレワーク推進の成否は「コミュニケーションの取りづらさ」の解決だけで決まるのではありません。
成功した企業の多くは、「何のためのテレワークか?」という目的を明確にしています。
テレワーク推進の目的には主に次の3点が挙げられます。
それぞれの目的と、実際の成功事例を併せて説明します。
テレワーク推進の目的例①生産性の向上
総務省の調査(※)によれば、68.3%の企業がテレワークの導入目的として「業務の効率性(生産性)の向上」を挙げています。
※総務省「令和元年通信利用動向調査の結果」令和2年5月29日 より
テレワーク推進により「業務の効率性(生産性)の向上」を果たした企業として、ネスレ株式会社と株式会社WORK SMILE LABOの事例を紹介します。
テレワーク推進の事例①ネスレ日本株式会社
ネスレ日本株式会社は、終身雇用や年功序列の制度から、より成果を重視した報酬・評価体系への切り替えを図り、その一環として2016年1月より、原則全社員が理由や頻度の制限なく社外で勤務できる「フレキシブルワーキング制度」を導入しました。
導入前に説明会を設け制度趣旨の理解を促した上、導入後も定期的に状況の確認と課題の解決を行い、改善を続けた結果、1人当たりの売上高の15%増、時間外労働の40%減に成功しています。
テレワーク推進の事例②株式会社WORK SMILE LABO
株式会社WORK SMILE LABOは、2016年よりテレワークを本格的に推進しました。
Web会議システムやクラウド勤怠管理、ログ管理システムによる業務の見える化などのツール整備だけでなく、制度やルール作り、そして社内の意識統一にも力を入れて取り組みました。
その結果、テレワーク推進の1年後に残業時間40%削減、売上108%増加、生産性113%増加に成功しています。
子どもの体調不良などで休みがちだった従業員も自宅で勤務できるようになり、従業員の間で偏りがあった残業時間の平準化にもつながりました。
テレワーク推進の目的例②人材の確保
人材の確保も、テレワークを推進する1つの目的です。
「勤務地」は、就労者にとって仕事選びの重要な条件となります。
能力に関係なく、配偶者の転勤や出産・育児等の事情でそれまでの勤務地に通勤する事が困難となる人や、自分に合いそうな会社でも勤務地の都合で就職を断念する人がいます。
一方テレワークでは、「勤務地」の概念に囚われる事のない雇用と就労が可能になります。
通勤の必要なく就業が可能になれば、人材は全国・全世界から募ることができます。
企業にとって、能力の高い人材を確保できる可能性が高まります。
テレワーク推進の事例③向洋電機土木株式会社
電気工事業・土木工事業を主事業とする向洋電機土木株式会社は、「社員の採用、退職防止、能力開発の可能性を引き出す」ことを目的としてテレワークを推進しました。
当時テレワークは難しいとされていた建設現場において、ウェアラブルカメラやタブレット等を用い、リモートで情報共有や指導を行う仕組みを導入しました。
並行して女性の活躍と子育て支援の推進や、地方採用にも力を入れ、ワークライフバランスを重視したテレワークを取り入れました。
結果、テレワーク推進を開始した2017年から1年のうちに、社員数は20名から32名(うち女性1名から8名)に、急速に拡がりました。
テレワーク推進の目的例③コストの削減
コストの削減も、テレワーク推進の目的や効果に挙げられます。
テレワークでは、通勤が不要となりオフィスワークが減る事から、通勤交通費やオフィスの賃料、光熱費等の削減が可能となります。
また会議や打ち合わせもリモートが主流となる事で、スケジュールと場所の調整業務や、待機や移動の時間も減り、残業の削減にもつながります。
通勤の不要と残業の削減による、従業員のワークライフバランスの改善も、テレワーク推進から派生するメリットの1つとなるでしょう。
テレワーク推進の事例④明豊ファシリティワークス株式会社
明豊ファシリティワークス株式会社では、テレワーク導入に先立ち、社員の業務をシステムによって時間単位で把握するところから手掛けています。
個々の生産性を定量化したうえで、それに応じたテレワーク環境の整備と改善を行った結果、時間あたり売上総利益を1.56倍に押し上げ、また1人当たりの残業を月平均27時間削減しています。
3)テレワーク推進を失敗しないための導入手順
ここからは、テレワークを推進する具体的な手順を紹介します。
- テレワーク推進の目的の明確化
- テレワーク推進の「対象社員・対象業務・実施頻度」の決定
- テレワーク推進に必要なツールの選定
- 導入計画書とガイドラインの策定
- 説明会の実施とトライアルの開始
- テレワークの振り返り(評価)と改善
①テレワーク推進の目的の明確化
まず最初に、テレワーク推進の目的を明確にして、文書化しましょう。
前述の通り、テレワーク推進の目的は様々です。
例えば、生産性の向上が目的であれば、予め現状を定量的に数値化しておきましょう。その上でテレワークにより目指す数値を明文化し、必要な施策を検討していきます。
②テレワーク推進の「対象社員・対象業務・実施頻度」の決定
テレワーク推進の対象と頻度を決めましょう。決定する際には、次の要素を参考にしてください。
決定すべき事項 | 要素 |
---|---|
対象社員 | ・希望制にするか、強制にするか ・社員の年次や業務習熟度に応じてテレワークの可否を区別するべきか ・管理職・一般社員のどちらも対象にするべきか |
対象業務 | ・業務は性質上、テレワークに向いているか ・ICTツールを活用することでテレワークへの移行が可能な業務か ・対面コミュニケーションが不可欠な業務ではないか |
実施頻度 | ・全勤務日とするか、週2〜3日など上限を決めるか ・初期段階はトライアル期間として、試行から入るべきか |
③テレワーク推進に必要なツールの選定
テレワーク推進の基本方針が固まったら、必要なツールを選定しましょう。
テレワーク推進では、用途や目的に合ったツールを導入することが大切です。ここでは、テレワーク推進に役立つツールを紹介します。
テレワーク推進に役立つツール
ツール | 導入メリット |
---|---|
チャット | ・メールと比べて短文・会話形式でのやり取りがしやすい ・音声通話やWeb会議とスムーズに連携できるツールもある |
Web会議システム | ・テレワーク環境下で複数のメンバーと打合せができる ・相手の顔を見ながら話す事ができ、また画面共有機能で、資料を提示する事もできる |
スマホ内線PBX | ・スマホを使って会社の電話番号で受発信ができる ・テレワーク環境下でもスマホを使って内線通話ができる 参考:スマホを会社電話として自宅や外出先でも使用するには?知っておきたいスマホ内線PBX |
勤怠管理ツール | ・テレワーク勤務の出退勤が管理できる ・有給などのワークフローをオンラインで申請できるツールもある |
タスク管理ツール | ・非対面で業務の進捗を把握できる ・共有機能で、チームによる共同作業の進捗も管理できる |
クラウドストレージ | ・非対面でもペーパレスでデータの授受ができる ・共同編集機能により、非対面でも複数のメンバーによるデータの加工ができる |
グループウェア | ・非対面でもスケジュール管理機能や掲示板機能で情報共有ができる ・チャット機能や社内SNS機能では、活性的なコミュニケーションができる |
セキュリティソフト | ・テレワーク環境下では、ウイルスやマルウェアの感染を防ぐために必須のツール ・BYODも、社有機器と同等のセキュリティレベルを実現できるものがある |
④導入計画書・ガイドラインの策定
テレワークの運用を開始するまでの計画書を作成しましょう。計画書には、次の項目が必要になります。
テレワーク導入計画書の項目例
- 導入までのスケジュール
- 対象業務、対象社員
- 実施頻度
- 実施上のルール、社内規定の整備
- 説明会や研修会の内容、実施予定日
- 効果検証の方法
いまの社内規定が、テレワークの勤務形態もカバーできているか確認しておくことも重要です。就業規則や勤怠管理、安全衛生、セキュリティの規定を確認しましょう。
とくにセキュリティの規定については、テレワークとオフィスワークでは大きくネットワーク環境が変わるため、十分に注意を払ってください。具体的には、社有PCを社外で利用する場合に接続を禁止するネットワーク(フリーWi-Fiなど)や、インストールを義務づけるセキュリティソフト、機器の保管方法に関する規定が必要となります。
⑤説明会の実施とトライアルの開始
テレワーク導入に先立ち、従業員に向けた説明会を開催することをおすすめします。
テレワークの対象となる従業員だけでなく、今までどおりオフィス勤務を継続する従業員にも説明会に参加してもらうことが大切です。
これを怠ると「テレワークの人は楽ができる」ような誤解による不公平感が生じる事もあります。
また本格的にテレワークを移行する前に、トライアルの期間を設けたほうがよいでしょう。
実際に挙がってくる課題の検証や、テレワーク用のツールの馴致に、トライアル期間を充ててください。その上でテレワークに関する細則を規定することで、齟齬のない本格的な運用が可能となるでしょう。
⑥テレワークの振り返り(評価)と改善
テレワーク導入後は定期的に振り返りを行い、効果を測定しましょう。設定した目標に対して、具体的な数値で計ることが大切です。
テレワークの導入目的が生産性の向上やコストの削減であれば、導入前の数値と定量的な比較を行ってください。
また、テレワークの対象となっている従業員と、今までどおりオフィス勤務を続けている従業員の双方に、定期的にヒアリングを実施してください。テレワークに移行したことで改善された点、困っている点を挙げてもらい、課題を1つ1つ解決していくことで、テレワーク導入の効果が高まります。
まとめ)明確な目的と導入後の効果測定と課題の抽出が、テレワーク成功の鍵
テレワークの導入で課題となる点や、失敗しないための手順について解説してきました。
オフィスワークからテレワークに移行したのち初めて、実感する課題は少なくありません。
予め明確な目的を設け、導入後も、定期的な効果測定と課題の抽出を行う事が、テレワークの成功の鍵となるでしょう。