- 若手社員がなかなか定着せず、すぐに辞めてしまう
- 今の若い人たちが何を考えているのかつかめない
- 若い社員や部下とどう接したらよいのか迷ってしまう
このような悩みを抱えている経営者や管理職の方はいないでしょうか?
今回は、若手社員と上手にコミュニケーションを図るコツについて解説します。
若者が置かれている状況や、世代間のギャップが生じやすい背景についても触れていますので、「今の若い人たちが理解できない」と感じている方はぜひ参考にしてください。
1)本当に、「今の若い子はすぐ辞める」のか
「今の若い子はすぐに仕事を辞めてしまう」「少し注意したら急に退職したいと言い出す」といった声を聞いたことはありませんか?
実際に若手社員が在籍している企業の方なら、世代感覚の違いに戸惑った経験をお持ちの方も多いかもしれません。
実際に数字上ではどうなのでしょうか?
厚生労働省が公表しているデータによると、1987年から2018年までの期間で大学卒3年以内の離職率が最も高かったのは2004年の36.6%です。
「3年3割」という言葉がよく知られている通り、過去20年以上にわたって3年以内の離職率は29%~38%の範囲に収まっています。
参照:厚生労働省「学歴別就職後3年以内の離職率の推移」
このように、若手社員の離職率は今も昔も変わっておらず、「今の若い子はすぐ辞めてしまう」は私たちの印象にすぎない、という可能性もあります。
なぜ、私たちは「若い子はすぐ辞める」と思ってしまうのか
入社3年後の離職率に大きな変化がないにもかかわらず、なぜ私たちは「若い子はすぐ辞める」という印象をもってしまうのでしょうか。
その要因の一つに「退職を申し出るタイミング」が挙げられます。
以下のグラフはエン・ジャパンが実施したアンケート結果です。
退職申し出日と退職日が近い場合、周囲は「突然辞めると言い出した」と感じてしまう傾向が強くなり、若い子は「すぐ」辞めると言い出すという印象を強くしてしまうのかもしれません。
また、別の要因として、最近の社会情勢の変化が挙げられます。
スマホが普及したことで転職情報を入手しやすくなったことに加え、近年は売り手市場のため転職のハードルが下がっているのです。
現状よりも条件が良い職場に移ることができるという予測がしやすく、転職に対する抵抗感が薄れているのは間違いないでしょう。
その退職は思いつき?辞められる方と辞める方の印象ギャップとは。
退職を決めたタイミングで申し出る、ということについて一部の人は、「きちんと考えていない」「退職を軽く捉えている」という印象を持つかもしれません。
ただ、退職申し出日と退職日が近いからといって、思いつきでの退職の申し出と言えるのでしょうか?
私たちが軽い・思いつきと感じてしまう重要なポイントとなるのが「退職を決意するまでの過程で、何らかの異変に気づいていたのか?」という点です。
実は、私たちが考えるよりも、若年層が退職や転職そのものを軽く捉えてはいません。むしろ、若手社員は相当な期間を悩んだ末に「退職」という決断に至っています。
周囲の人間が、若手社員の日頃の悩みや問題を察知できずにいると、退職を申し出てきた際に「なぜ、急に?」という印象を受けやすくなります。
若手社員がすぐに仕事を辞めるという印象をもっているとすれば、退職に傾きつつある気持ちやきっかけを察知できない「関係性の希薄さ」にこそ、問題の本質が潜んでいるかもしれないのです。
2)私たちは若年層のことをどれだけ理解しているか
若年層とのかかわり方を考える際、彼ら・彼女らの考え方や感じ方がどのようなものかを知っておくことも大切です。
もちろん世代だけで思考や感受性を一括りにすることはできませんが、一定の傾向があることを知っておくことで、コミュニケーションを円滑化するのに役立つケースもあるはずです。
若年層を取り巻く環境や社会情勢を手がかりに、若者に多く見られる感覚・考え方への理解を深めましょう。
時間感覚
少し前に、「今の若年層は、映画を早送りで観る」という話が散々メディアで取り上げられていました。
「コンテンツ(作品)やストーリーへの向き合い方」についての姿勢も特徴的でしたが、とくに注目したい点は「時間感覚」についてです。
インターネットに常時接続されたスマートフォンに物心ついた頃から触れてきた若者は、それより上の世代と比べて可処分時間の使い方をシビアに判断する傾向があります。
例えば、SNSや動画などのコンテンツは膨大であり、そのすべてを視聴することはできないため、「どのコンテンツを見るべきなのか」という選別を常に無意識下で行っているのです。
この感覚は、上の世代にとって理解しがたいものかもしれません。
かつては「飲みニケーション」と呼ばれた退勤後の酒席を、若年層が敬遠しがちなことには、こうした時間感覚の違いが表れています。
酒席に付き合う時間対効果を、無意識のうちに天秤にかけている可能性があるのです。
さらに、LINEなどの非同期通信ツールを日常的に利用している若年層は、チャットで事足りる用件を電話でやり取りするのを嫌う傾向があります。
これも、「電話で話している間は作業がストップする」「電話は不意にかかってくるので時間を奪われる」といったシビアな時間感覚によるものといえます。
成長・成功の捉え方
いま20代の若者は、日本が豊かだった時代を経験していません。
高度経済成長期には個人の努力が社会の発展につながり、社会の繁栄が個人の豊かさとして還元されるという空気が世の中に満ちていました。
しかし、現代においては「頑張れば報われる」と実感できる場面は(少なくとも社会的な意味においては)減りつつあります。
努力しても給料が上がるとは限らず、老後の生活が保証されているわけでもない若年層にとって、成長や成功の捉え方が上の世代と大きく異なるのは決して不自然なことではないでしょう。
顕著な例が「管理職になりたくない」「昇進に興味がない」といった感覚でしょう。
昇進することで責任や負担が重くなる一方で、給与条件が劇的に良くなるとは限りません。
出世や昇進を成長・成功の目標とするのではなく、「働きやすさ」「ライフワークバランスの実現」といった個々人の価値観を重視する若者が増えるのは、昨今の社会情勢を踏まえれば必然といえるかもしれません。
幸せの感じ方
若者が何に対して「幸せ」を感じるか、という点に関しても、上の世代と若者の間ではギャップがあります。
心理学者のマーティン・セリグマンは、人が幸せを感じる要因として次の5つを挙げています。
個人の努力が社会の繁栄と直結しているという実感が湧きやすかった1970~1990年代では、主に「達成・成功」が個人的な幸福感とも深く結びついていました。
しかし、達成すべき大きな目標が見えにくくなっている現代においては、より身近な他者との関係性を重視する人が増えています。
顔の見えない不特定多数の「誰か」ではなく、目の前にいる仲間や親しい人とのつながりを大切にしたいと感じる傾向があるのです。
売上目標の達成に向けて尽力するよう発破をかけた場合、若年層は「期待されている」のではなく「プレッシャーをかけられている」といったネガティブな捉え方をするかもしれません。
そもそも何に対して幸せを感じるかが年代によって異なる可能性があることは、十分に理解しておく必要があるでしょう。
3)若手社員と上手にコミュニケーションを取り、育てていくコツ・ポイント3つ
世代差による考え方や感覚の違いがあることを前提として、若年層と上手にコミュニケーションを取っていくにはどうすればよいのでしょうか。
ポイントは、世代差を無理に埋めようとしたり、上の世代の感覚を押し付けたりするのではなく「歩み寄る」ことです。とくに意識しておきたい3つのコツを見ていきましょう。
まずは、自分の固定観念を疑ってみる
若年層の言動や考え方に違和感を覚えたら、「おかしい」「理解できない」と決め込む前に自分自身の固定観念を疑ってみましょう。
人は、自分が慣れ親しんできた習慣を、常識と思い込む傾向があります。管理職や経営層が信じているマナーや常識は、もはや時代遅れになっているのかもしれません。
例えば、「残業をしてでも仕事を終わらせるのが当然」「重要な用件はメールだけでなく口頭でも伝えるべき」といった常識は、特定の時代に広まった一過性のルール・マナーといえます。
上に挙げた2つの常識に対して、若年層からの反対意見としては以下のようなものがあります。
これまで常識とされてきたもの | それに対する反対意見 |
---|---|
「残業をしてでも仕事を終わらせるのが当然」 | 残業によりその人の自由な時間を失うことは、本当に「当然」なのか? 残業を減らす工夫は十分になされていたのか? |
「重要な用件はメールだけでなく口頭でも伝えるべき」 | 口頭で伝えるべきなら、メールを送る意味はあるのか? 上司も部下に対して同じように対応しているのか?(それとも、「上司だから」という理由でその義務は免除されるのか?) |
上の世代の人たちが、「過去の経験・状況」により、これまでの常識を信じてきたことは、間違いではありません。
一方で、「現在の経験・状況」により、これまで常識とされてきたものに対して反対意見を持つ人がいるのも事実です。
自分たちの辿った人生をもとに、ひとり一人が自分の信じる常識を持っている。また、それを認め合っていこうという時代になったのかもしれません。
安心と共感を育めるコミュニケーション
終身雇用が実質的に崩壊した現代においては、部下にとってのロールモデル=直属の上司、とは限りません。
タテのつながりが実効力を失いつつある今、若年層がより重視する傾向があるのはヨコのつながりです。
若年層の多くは役職や肩書といった「形式」ではなく、よりその人自身の「本質」を見るようになっています。
上司が「立場上、部下に厳しく指導するのは当然」と指導をしていると、若者の目には「パワハラ上司」として映ってしまう可能性があります。
会社には上下関係があるのは当然ですが、人は自分に興味・関心をもってくれる相手に心を開くものです。若手社員に対し、関係のみで接するのではなく、人と人が接する際の「共感」に主眼を置いたコミュニケーションを意識しましょう。
安心と共感を育むコミュニケーションの具体的取り組み
- 1on1ミーティングなど、個人対個人で対話をする機会を設ける
- 相手が仕事内外で何に関心を抱いているのか興味をもって接する
- 得意なことや長所を見出し、強みを活かせる機会を提供する
- 部下の課題に対してアドバイスするのではなく、一緒に解決していく姿勢で臨む
安心と共感を育むコミュニケーションを実現するためのカギを握るのが「対話」と「関心」です。
上司と部下、職場の先輩と後輩といった社会的な立場を超えて、「あなたのことをきちんと見ている」というメッセージを発信していく必要があります。
対話と関心を心がける上司や先輩であれば、若手社員も本音ベースのコミュニケーションを取りやすいはずです。
上司や先輩という立場を「指導者」「管理者」として捉えるのではなく、「支援者」「協力者」としての立ち位置を意識しましょう。
やる気を引き出すコミュニケーション
若手社員の意欲を引き出すコミュニケーションを意識することも大切なポイントです。
人によっては「部下に高い目標を与えて背伸びをさせたほうが成長するのでは?」と思うかもしれません。
しかし、組織の成長、社会の発展という実感が薄い世代にとって、こうした試みは過度なプレッシャーや負担感を与える結果になりかねません。
例えば、業務の指示を出す際にも「これがあなたの仕事なのだから、当然遂行するべきだ」というスタンスではなく、仕事の目的や意味合いを丁寧に説明しましょう。
「会社として必要な仕事なので」と伝えられるよりも、「あなたの強みが活かせる仕事だと思う」と説明されたほうが、自分自身がその仕事に取り組む意義が明確になるはずです。
このように、「会社・上司の都合」ではなく、相手の視点に立った伝え方を心がけることが、若手社員のやる気を引き出すコミュニケーションの基本といえるでしょう。
やる気を引き出すコミュニケーションの具体的取り組み
- 達成するべき目標を一方的に与えるのではなく、仕事の目的や意義を丁寧に説明する
- 仕事を任せる背景・根拠とともに、若手社員自身の強みを伸ばしたいというメッセージを伝える
- 高圧的な指示の出し方にならないよう、若手社員の「納得感」を重視する
- 実施した仕事に対して適宜フィードバックを行い、「やらせっぱなし」にしない
やる気を引き出すコミュニケーションの大前提は「上から目線でないこと」です。
コミュニケーションの根底に上下関係があると感じると、業務上の指示に対しても「義務感」「やらされ感」が生じやすくなります。
たとえ上から目線で伝えているつもりがなくても、知らず知らずのうちに高圧的な言い方になっていないか十分に注意しましょう。
また、若手社員が実施した仕事に対してこまめにフィードバックを行うことも重要なポイントです。
「指示通りに仕事をこなすのは社会人として当然では?」と感じるかもしれませんが、たとえ小さなことでも自分の仕事が役立っていると実感することで意欲は高まっていきます。
仕事を任せられたきり放置されていると若手社員が感じないよう、指示とフィードバックはセットで捉えることが大切です。
まとめ)若手社員の育成は「歩み寄り」と「相互理解」を意識することから
今から1,000年以上前に書かれた『枕草子』には、「最近の若者は言葉が乱れていて嘆かわしい」「省略語ばかり使ってみっともない」といった記述が見られます。
世代差による感覚の違いから「理解しがたい」と感じる状況は、現代に限らずはるか昔から繰り返し生じていたのでしょう。
もし皆さんが「今の若い子はすぐ辞める」と感じていたようなら、若年層に対して何らかの先入観を抱いている可能性があります。
若手社員の育成方法を検討する際には、ぜひ「歩み寄り」と「相互理解」の視点を意識してみてください。
若年層のもつ新鮮な感覚に、部下育成やマネジメントのヒントが隠れているかもしれません。