中小企業が使える助成金・補助金の主な種類と利用時のポイント・注意点

中小企業が活用可能な助成金・補助金の存在は知っているものの、具体的にどんな種類があるのか、自社が対象になるのか気になっていませんか?

「受給するための申請手続きが大変なのでは?」「助成金・補助金の種類が多すぎて把握できない」といった疑問や悩みを抱えている経営者の方も多いでしょう。

この記事では、助成金・補助金の種類と利用時のポイントや注意点をまとめています。

ぜひこの記事を参考に、助成金・補助金を活用してください。

  

1)そもそも、助成金・補助金とはどんなもの?

助成金・補助金とは、主に国や地方公共団体(一部民間の場合もあり)から支給されるお金のことをいいます。

返済が必要な融資とは異なり、助成金や補助金は原則として返済不要です。

融資が「借りる」ことであるのに対して、助成金・補助金はお金を「もらう」ための制度です。

ただし助成金・補助金には目的や使途が定められており、「資金が必要になったときに調達できる」のではなく、「助成・補助の対象になる場合は活用できる」性質のものです。

まず「何を対象に助成金・補助金が支給される制度があるのか」把握して、有効に活用しましょう。

  

助成金と補助金の違いは?

助成金と補助金の主な違いは下表の通りです。

  

助成金補助金
審査要件を満たしていれば基本的に受給できる。申請内容に審査が入るため、妥当性が認められなければ受給できない。
予算上限明確に示されていないことが多い。金額や採択件数の上限が明確に決まっていることが多い。
受給方法先払い(後払いの場合もある)基本的に後払い

対象の制度にもよりますが、助成金よりも補助金のほうが、受給の条件が厳しく設定されています。

また、助成金および補助金の一部は後払いのものもあり、まず自己資金を持ち出した後に支給される場合もあります。

このため、助成金や補助金を申請する際は、キャッシュフローにも留意する必要があります。

2)はじめに押さえておきたい、助成金・補助金5点

 

助成金・補助金には国や地方自治体、民間団体が定めるものも含めると非常に多くの種類があります。

そのうち、利用が多い主要な助成金・補助金はどのようなものがあるのでしょうか。

多くの企業が利用する助成金・補助金は、次の5点となります。

 

  • キャリアアップ助成金
  • 人材開発支援助成金
  • 持続化補助金
  • IT導入補助金
  • ものづくり補助金

  

キャリアアップ助成金

非正規雇用労働者のキャリアアップを促進し、正社員化や処遇改善に役立てるための助成金です。

契約社員や派遣社員、嘱託社員、アルバイト・パートとして就業中の従業員を対象にキャリアアップの取り組みを行う際、助成金が支給されます。

対象者や処遇改善の取り組みに応じて、下表のコースが用意されています。

  

コース
正社員化コース有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換、または直接雇用した場合に助成される
障害者正社員化コース障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等へ転換した場合に助成される
諸手当制度等共通化コース有期雇用労働者等に関して正規雇用労働者と共通の諸手当制度を新たに設け、適用した場合、または有期雇用労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、延べ4人以上実施した場合に助成される
選択的適用拡大導入時 処遇改善コース労使合意に基づく社会保険の適用拡大の措置の導入に伴い、その雇用する有期雇用労働者等について、働き方の意向を適切に把握し、被用者保険の適用と働き方の見直しに反映させるための取り組みを実施し、新たに被保険者とした場合に助成される
短時間労働者労働時間延長コース有期雇用労働者等の週所定労働時間を延長し、新たに社会保険を適用した場合に助成される

多くの企業の活用が想定される「正社員化コース」の場合、具体的な支給額は次の通りです(2022年11月時点)。

  • 有期 → 正規:57万円  
    有期 → 無期 または無期 → 正規:28万5,000円
      ※1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は20人まで
  • 派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者として直接雇用した場合:28万5,000円
  • 母子家庭の母等または父子家庭の父を転換等した場合:95,000円
  • 勤務地・職務限定正社員制度を新たに規定し、有期雇用労働者等を当該雇用区分に転換または直接雇用した場合:95,000円
    ※ 1事業所当たり1回のみ
参照:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内

  

キャリアアップ助成金の大きな特徴は、1回に支給される金額が大きいことにあります。

人材採用に注力する企業は、積極的に導入を検討しておきたい制度です。

各コースの詳しい支給要件に関しては、厚生労働省が公表している下記のサイトを確認してください。

参考:

厚生労働省「キャリアアップ助成のご案内」 

  

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金とは、「職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合に支給される助成金です。

正規雇用者が対象となっており、訓練や資格取得にかかった費用の一部および人件費の一部が助成の対象となります。

ただし、専門的な知識・技能が対象のため、マナー研修やPC操作の基礎研修などは含まれない点に注意しましょう。

具体的なコース内容は下表の通りです(2022年11月現在)。

  

コース説明
特定訓練コース企業が若年者に対する訓練、労働生産性の向上に資する訓練などをOJTとOFF-JTを効果的に組み合わせて実施した場合に費用の一部が助成される
一般訓練コース特定訓練コース以外で、職務に関連した専門的な知識及び技能の習得をさせるための職業訓練等を企業等が実施する場合に費用の一部が助成される
教育訓練休暇付与コース企業が有給教育訓練休暇制度を導入し、労働者がその休暇制度を利用して訓練を受けた場合に費用の一部が助成される
特別育成訓練コース有期契約労働者などに対し、正規雇用労働者などへの転換、または処遇の改善を目的として訓練を実施した場合に費用の一部が助成される
建設労働者認定訓練コース建設業の中小企業等が、職務に関連した専門的な知識及び技能の習得をさせるための職業訓練等を企業等が実施する場合に費用の一部が助成される
建設労働者技能実習コース建設業の中小企業等が有給教育訓練休暇制度を導入し、労働者がその休暇制度を利用して技能実習を受けた場合に費用の一部が助成される
障害者職業能力開発コース企業が障害者の職業に必要な能力を開発、向上させるための訓練等を実施する場合に費用の一部が助成される

  

多くの企業の利用が想定される「特定訓練コース」および「一般訓練コース」の具体的な支給額は次の通りです。

   

参考:厚生労働省「人材開発支援助成金(特定訓練コース・一般訓練コース)のご案内(詳細版)

  

例:電気工事事業者の場合

訓練内容新入社員を対象とした技能訓練として、業務時間内に第二種電気工事士資格の取得に向けた研修およびOff-JTを行った。
助成金の支給例研修等の受講料の45%に加え、Off-JTに要した時間に相当する労働時間に対する賃金助成(1時間760円)が支給される。

上の例の場合、受講料やOff-JTに要した時間にもよりますが、新入社員1人あたり数万円の金額が助成されます。

いずれのコースも支給要件が厳格に定められていますので、人材開発支援助成金の申請を検討する際は、社会保険労務士や税理士などに相談しましょう。

  

参考:

厚生労働省「人材開発支援助成金(特定訓練コース・一般訓練コース)のご案内(詳細版)

厚生労働省「人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇付与コース、特別育成訓練コース)」

  

持続化補助金

持続化補助金とは、主に小規模事業者を対象に「販路開拓や生産性向上の取り組みを支援する」制度です。

販路開拓や生産性向上の取り組みにかかった費用の一部が補助金として給付されます。補助率は取り組みにかかった費用の3/4で、上限額は100万円です。

2022年11月現在、コロナ禍の状況を踏まえ感染防止対策も支給対象となっています。「持続化補助金<低感染リスク型ビジネス枠>」の対象となる取り組みの例は下図の通りです。

出典:全国商工会連合会「小規模事業者持続化補助金<低リスク型ビジネス枠>

小規模事業者持続化補助金<低感染リスク型ビジネス枠>の場合、感染防止対策に要した経費の総額の1/4(上限25万円)が補助対象となります。

さらに、緊急事態措置に伴う特別措置が適用される場合は、感染防止対策に要した経費の総額の1/2(上限50万円)まで補助対象が上がります。

  

参考:

全国商工会連合会「令和2年度第3次補正予算 小規模事業者持続化補助金<低感染リスク型ビジネス枠>

全国商工会連合会「丸わかり!小規模事業者持続化補助金<低感染リスク型ビジネス枠>

   

IT導入補助金

IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者等を対象に、ITツールの導入の経費の一部が補助金として支給される制度です。

ITツールにはソフトウェアやクラウドサービスも含まれるため、顧客管理システムや勤怠管理ツールの導入にも補助金が活用できます。

IT導入補助金には、大きく分けて「A・B類型」と「C・D類型」の2つがあります。A・B類型が通常枠の補助金、C・D類型はポストコロナに対応するビジネスモデルへの転換を目指すための特別枠の補助金となります。

具体的な補助金額は、A・B類型が「費用の1/2、最大450万円」であることに対し、C・D類型では「費用の2/3、最大450万円」となっています。

たとえばPC・タブレット等、ハードウェアをレンタルする際の費用もC・D類型の対象となります。

IT導入補助金の申請に当たっては、まずC・D類型の対象となるかどうかを確認しましょう。

  

ホームページに予約システムや売上管理システム等を搭載する際の、導入や開発の費用もIT導入補助金の対象となることがあります。

ただし、他の補助金と同様に厳格な支給要件がありますので、あらかじめ社会保険労務士や税理士などの専門家に相談しましょう。

  

参考:

一般社団法人サービスデザイン推進協議会「IT導入補助金2021

経済産業省 ミラサポPlus「IT導入補助金とは」

  

ものづくり補助金

ものづくり補助金とは、中小企業や小規模事業者を対象に新サービスや試作品の開発、生産プロセスの改善に取り組む際の設備投資等を支援するための制度です。

補助金額は100万円〜1,000万円の範囲で、各種費用に対して小規模事業者の場合は最大2/3、中小企業の場合は最大1/2に相当する金額が補助されます。

ものづくり補助金には「一般型」と「グローバル展開型」の2種類があります。

グローバル展開型は海外事業の拡大・強化等を目的とした設備投資が対象となっており、原材料費や外注費、知的財産権等関連経費、海外旅費なども補助対象となる事が特徴です。

海外での生産や開発を展開、または計画している企業は、ものづくり補助金の活用を検討してみるとよいでしょう。

ただし、支給要件は厳格に定められているため、自社の取り組みがものづくり補助金の対象になるかどうかは、社会保険労務士や税理士などに相談することをおすすめします。

社会保険労務士や税理士などに相談しておくことをおすすめします。

  

参考:

全国中小企業団体中央会「ものづくり補助金総合サイト

経済産業省 ミラサポPlus「ものづくり補助金とは

   

3)助成金・補助金の利用時のポイントと注意点

多くの経営者の方にとって気になるのは「具体的にどうすれば助成金・補助金を利用できるのか」という点でしょう。

そこで、助成金・補助金を利用する際に大切な、3つのポイントをまとめました。

  

  • 助成金・補助金の「調べ方」を知っておく
  • 助成金・補助金の申し込み~交付までのステップを知っておく
  • 社会保険労務士や税理士などの専門家からの意見・アドバイスを受ける

   

助成金・補助金の「調べ方」を知っておく

助成金・補助金は使途を特定して申請・受給する必要があることから、「そもそも何を対象とした制度があるのか」把握しておくことが重要です。

社会保険労務士や税理士からアドバイスを受ける事も可能ですが、その前に予め、どのような助成金・補助金があるのか、調べておきましょう。

助成金・補助金の情報収集は、下記の3つのWebサイトがおすすめです。

  

助成金・補助金探しのおすすめサイト

ミラサポPlus「よく見られている補助金・給付金

   

J-Net21「支援情報ヘッドライン 補助金・助成金・融資

   

労働省「雇用関係助成金検索ツール

   

上記のサイトでは、「雇用・育成」「設備投資」といった分野別に助成金・補助金を調べることができます。事業や取り組みに合った制度を探す際にぜひご活用ください。

   

助成金・補助金の申し込み~交付までのステップを知っておく

助成金・補助金には厳格な支給要件が定められており、所定の手続きを踏んで申請する必要があります。申請から入金までの流れは制度ごとに異なる点もありますが、一般的には下表の手順をイメージしてください。

  

手順対応者概要
1)申請企業応募申請書や計画書など、所定の書類一式を用意して事務局へ申請します。
2)審査・採択 (交付決定)事務局審査後、採択または不採択の結果通知が届きます。
3)実施企業採択されたら、計画した事業や業務、設備投資を実施します。
(※途中で中間審査や監査が入る場合もあります。)
4)報告企業実施期間の後、所定の報告書を作成、提出します。
制度によっては実施後の効果や、目標達成度などに関する詳細な報告を求められることもあります。
5)検査・確定事務局報告内容の検査を経て、助成金・補助金支給額が確定します。
6)請求・入金企業金額が確定した助成金・補助金の請求手続きを行った後、事務局から入金されます。

上表の通り、審査・検査は「申請時」と「実施後(または実施中)」に行われます。計画書に沿って着実に事業や業務、および設備投資を進める必要がある点に注意してください。

   

入金のタイミングは「後払い」になることが多い

助成金・補助金は基本的に計画実施後の「後払い」になるケースが多いため、キャッシュフローにも注意する必要があります。

一例として、前述の「ものづくり補助金」は設備投資を支援する制度のため、導入する設備によっては数千万円規模のコストがかかるケースも少なくありません。投資と補助金の入金にはタイムラグが生じることから、資金繰りを併せて検討しておくことが大切です。

最も避けたいのは、助成金・補助金を利用するつもりで投資に踏み切ったものの、審査を通過できなかった事態です。

資金計画と助成金・補助金の申請に向けた準備をバランスよく進めることが重要です。

  

社会保険労務士や税理士などの専門家からの意見・アドバイスを受ける

助成金・補助金に厳格な支給要件が設けられているのは、不正受給を防止するためです。

助成金・補助金の財源が税金であることから、申請や審査の手続きが複雑になるのは致し方ないことといえます。

助成金・補助金を受け取るためだけでなく、不正受給を疑われないためにも手続きの流れや注意点を熟知しておくことが大切です。

万が一、不正受給があったと見なされた場合、受給金の返還は当然の上、当該企業はその後5年間は助成金・補助金の支給対象から除外されてしまいます。

たとえ故意でなくても、制度を正確に理解していなかったために不正受給に該当することのないよう、十分に注意しなければなりません。

特に助成金・補助金の利用が初めての方は、社会保険労務士や税理士といった専門家から意見・アドバイスを得ることをおすすめします。

  

まとめ)助成金・補助金の仕組みを理解して正しく活用しよう

助成金・補助金には、本記事で取り上げたもの以外にも数多くの制度があります。

各制度の支給要件や支給金額などが変更されるケースも決して珍しくないため、最新の情報を把握しておくことが大切です。

申請を検討している助成金・補助金がある場合は、各事務局が公開している情報を十分に確認のうえ、仕組みを正しく理解して活用する必要があります。

必要に応じて専門家の意見・アドバイスを参考にしながら、助成金・補助金の活用に向けた準備を進めていきましょう。